大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(う)266号 判決

被告人 星野恒朗

〔抄 録〕

論旨は、原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで、一件記録を検討し、当審における事実取調の結果を参酌して諸般の情状を考えてみるのに、被告人は、原判示交差点を右折進行しようとして、停止している先行車の最後尾付近で中央線を右に越え道路右側部分に入って停止中の先行車両の右側方を走行して交差点に進入すべく時速約四〇キロメートルで進行したため本件事故が惹起されるに至ったことは証拠上明らかで、この過失は当然責められなければならないところである。しかしながら、他面関係証拠によると、本件衝突事故の発生する直前、停止中の先行車両が一せいに発進を始めるや否やすぐ急停車措置を講じたことが認められるのであって、これによれば先行車両は対面信号が青色に変ったので発進したところ、左方道路から交差点に入ろうとした被害車両(原動機付自転車)を発見しこれとの接触の危険を感じて急停車措置を講じたものと推認するのが相当である(この場合に先行車両に見込発進があったものと認めるだけの証拠はない。)。そうすると、先行車両発進の時点において被害車両の対面信号は赤色に変ったわけであり、同信号における黄色の現示秒数は四秒であるから、同信号が黄色に変ったのはそれより四秒前ということになるが、本件交差点に進入してきた被害車両の速度は証拠上時速約三五キロメートル(秒速約九・七メートル)であったと認められるので、被害車両は対面信号が黄色に変った時点においては遅くとも交差点直前で停止しうるだけの制動可能な地点を走行していたものと推認することができる。したがって、右の事実を前提とすれば、被害者にも対面信号が黄色に変った際交差点直前で停止しうるように制動措置を講ずべき注意義務があったといわなければならない。しかるに、記録によると、被害者は漫然前記速度で交差点内に進入したと認められるので、被害者には黄色信号を無視して本件交差点に進入した過失があったとみるのほかなく、本件衝突事故は交差点進入に際しての被告人の原判示過失と被害者の過失とが競合して惹起されたものと認めざるをえない。そして、この被害者の落度も決して軽視することのできないものである。そこで、以上のように本件衝突事故が被告人と被害者との過失の競合によるものであって被害者にも責められるべき相当の落度があったこと、被告人は本件事故後は運転業務の危険を痛感してタクシーの運転手をやめ工員に転じ、現在においては再犯のおそれもないことなどを考量すると被告人にはそれまでに多数の交通事犯による罰金刑の前科があること、被害者の負傷が相当重いことなど被告人に不利な事情を考慮しても、本件において被告人に対して禁錮八月の実刑を科した原判決の量刑は重きに過ぎ、今回は刑の執行を猶予するのが相当であると判断される。それゆえ、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

(中野 寺尾 粕谷)

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